アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー
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発行年月 : 2019年6月
出版社 : 早川書房
収録作品
宮澤伊織「キミノスケープ」
森田季節「四十九日恋文」
今井哲也「ピロウトーク」
草野原々「幽世知能」
伴名練「彼岸花」
南木義隆「月と怪物」
櫻木みわ×麦原遼「海の双翼」
陸秋槎「色のない緑」
小川一水「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」
買いっぱなしで積読状態だったものを読んだら、想像していたよりもずっと良かった。
百合を謳っているが、というか、そもそも百合っていうのがこの位のさじ加減のもののことを言うのかわからないけど、そこまでLGBTQ的な問題提起やセクシャリティに踏み込んだような物語はなく、恋愛導入期的な、同性に対する憧れだとか恋愛感情への目覚めとか、実はふたりは…みたいな感じだったり、もっと広く女の人同士の関係性についての話で、軽く読めるといえば読めてエンタメ的に楽しいし、噛み応えがないといえばないかもしれない。
また、SFっていう現実世界にはない要素や世界設定と合わさってくると、同性愛を扱う事の特別さのようなものは希薄で、それが良いのか悪いのかはよくわからないけど、とにかく読みやすかった。
「彼岸花」や「ツインスター・サイクロン・ランナウェイ」のエンタメに振った作品も面白かったが、自分は「海の双翼」の、設定がだいぶ込み入った世界観かつ淡々とした文体と、愛情や嫉妬のような生々しい感情や、生き物の身体の美しさと醜さ、社会から逸脱した振る舞いに付きまとう困難というか払わされる犠牲…などの描写のバランスが、一番読み進めていくうちに味が増してくるようで特に面白かった。
また「色のない緑」の次の箇所が心に残った。
「たしかに二人のしてる研究は大嫌いだけど、だからって二人のことは嫌いにならないから。結局はぜんぶ私自身の問題。私が時代についていけないから。ときどき思うの、自分の人生はチョムスキーのあの言葉に似てるって」
「例の "Colorless green ideas sleep furiously" のこと?」
「そう」私はうなずいて、グラス半分を流し込んだ。「その文章。文法には従っててもなんの意味もない。私となにが違うんだろう――私は自然界の規則とでもいうものに従って生まれてきて、この人生も自然と人間社会の規則を外れたことはない。なのに私は、自分の人生のどこにも、”意味" と言えそうなものが見つからないの。私の人生はまさしくあの "Colorless green ideas sleep furiously" って文章みたい」
「でもエマが証明してくれたんじゃなかった? この文は、文脈によっては意味が生まれると」
「現実に、そんな文脈なんて存在するの?」
「いまこのときがそうかもしれないし」モニカは言った。「まだそのときは来ていないだけかもしれない」
(「色のない緑」, p324~325)